はじめに
新会計基準の導入に伴い、監査対応の内容も大きく変化しています。特に収益認識基準やリース会計など、従来と異なる判断が求められる場面では、監査法人との認識共有が不可欠です。
こうした背景の中で、制度改正対応を担っていた社員が異動・退職する場合、監査対応の引き継ぎが不十分だと、過去の経緯や判断理由が失われ、再説明や指摘対応に追われる事態になりかねません。
本記事では、新会計基準に関連する監査対応の引き継ぎで、特に押さえるべき5つのチェックポイントを紹介します。
1.論点整理メモの引き継ぎ
新会計基準の導入時には、監査法人とさまざまな論点について協議しているはずです。これらの記録が残っていないと、後任者は何を・なぜ説明していたのか把握できません。
対策:
- 監査法人と共有した論点リストをExcelやNotionで一覧化
- 協議の結果や想定問答をメモとして残す
- レビュー会議の議事録も保存し、アクセス可能に
2.各論点に対する社内判断の根拠を明文化
監査法人との認識齟齬を防ぐためにも、社内でどのように結論を出したかが重要です。特に曖昧な判断ポイントについては、資料がないと再度質問を受けることになります。
対策:
- 会計方針の決定に至った経緯(議論・比較案・社内レビュー)を記録
- 判断に使ったエビデンス(契約書・過去実績・業界慣行など)も添付
- 社内稟議書や承認フローの記録も引き継ぎ対象に
3.監査対応スケジュールと提出資料一覧の管理
監査法人から求められる資料や質問は多岐にわたります。引き継ぎ時に過去の提出資料が整理されていないと、再提出や認識違いが起きやすくなります。
対策:
- 年次・四半期ごとの監査スケジュールを一覧で作成
- 各監査対応で提出した資料のリストと保存場所を明記
- 修正指摘があった資料については、修正前後の両方を残す
4.内部統制の変更点と影響の把握
新会計基準導入により、内部統制上の手続きや記録方法が変わっている場合があります。これに気づかず監査対応をすると、統制上の不備とみなされるリスクがあります。
対策:
- 内部統制評価(J-SOXなど)の対象となる業務プロセスの変更点を記録
- 統制テストの実施記録・証憑もあわせて保存
- 統制環境の改善指摘に対する是正履歴も引き継ぎ
5.監査法人との関係性や特性の共有
意外と見落とされがちなのが、「誰が何を気にしているか」という監査法人のスタンスや担当者の傾向です。これを引き継がないと、対応のトーンミスが発生します。
対策:
- 担当監査人のスタイルや過去のこだわりポイントをメモ化
- 認識齟齬があったテーマや過去の注意喚起事項を一覧に
- 毎回のレビュー時のやり取りをSlackやTeamsで共有
まとめ
監査対応においても、「新会計基準の知識」だけでなく、「過去の経緯と判断」をいかに引き継ぐかが重要です。制度改正対応の初動で苦労した知見を、引き継ぎによってチームの共有財産にすることができれば、監査対応もよりスムーズになります。
チェックリストを活用し、「引き継がないと困る情報」に優先順位をつけて管理していきましょう。属人化を防ぎ、制度改正後の監査にも強いチームづくりを目指しましょう。
参考リンク
金融庁「監査基準の改訂に関するお知らせ」:https://www.fsa.go.jp/news/r2/sonota/20201210/20201210.html
日本公認会計士協会「収益認識に関する会計基準の監査対応」:https://jicpa.or.jp/specialized_field/20210331.html
経済産業省「内部統制報告制度(J-SOX)実務指針」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/accounting/internal_control/index.html
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