会社側が行うべき退職時の引き継ぎ指示マニュアル。異動・退職時に会社の資産を断絶させないために

目次

はじめに

従業員の退職が決まったとき、会社側にとって最も大きな不安の一つが「引き継ぎがちゃんと終わるだろうか」という点ではないでしょうか。
特に中小企業では、標準化された引き継ぎマニュアルが無いことも多く、担当者が手探りで対応しているケースも散見されます。

引き継ぎの指示が曖昧だと、業務の停滞や顧客対応の不備など、後で大きな損失につながりかねません。一方で、退職者側も急な引き継ぎを一方的に命じられるとモチベーションが下がり、協力が得られなくなることもあります。

この記事では、人事担当者や上司が知っておくべき 「引き継ぎ指示の基本」 から 「具体的な進め方」「トラブル防止策」 までを、法律面と実務面の両方から解説します。


まず把握すべき基本:引き継ぎは義務か?

そもそも退職者に引き継ぎを指示する法的根拠はあるのでしょうか。
実は、日本の労働基準法には「退職時の引き継ぎ」に関する明文規定はありません。しかし、裁判例や一般的な労務管理の実務では、使用者の業務命令権に基づき、退職者には在職中の労務提供の一環として引き継ぎを行う義務があるとされています。

特に就業規則に「退職時は業務を引き継ぐこと」と明記しておくと、万が一協力が得られない場合の説明がスムーズです。
人事担当者としては、入社時の誓約書や就業規則にこの条項が含まれているかを改めて確認しておきましょう。


引き継ぎ指示のポイント①:引き継ぎ計画の策定

退職の申し出を受けたら、まず最初に行うべきは 「引き継ぎ計画」の策定 です。
何から手を付ければ良いのか分からないまま退職日を迎えると、業務の漏れや混乱が避けられません。

まずは以下の手順で計画を立てましょう。

  • 業務棚卸しを実施する
    退職者本人に、現在担当している業務をすべて書き出してもらいます。顧客対応、社内業務、システム管理など漏れなくリスト化することがポイントです。
  • 後任者を決定する
    後任者が決まっていない場合、誰がどの業務を引き継ぐのかを早急に割り振ります。
    人数が足りない場合は、部署内での分担や、外部サポートの検討も含めて進めます。
  • スケジュールを明確にする
    退職日、有給消化開始日、引き継ぎ完了予定日を逆算し、週ごとに達成目標を決めます。
    Excelやスプレッドシートで共有し、誰でも進捗を確認できる形にしておくと良いでしょう。

引き継ぎ指示のポイント②:チェックリストを用意する

計画を立てたら、次は 「何をどこまで引き継ぐのか」 を明確にするための チェックリスト を用意します。

退職者任せにすると、重要な情報が口頭だけで済まされてしまう恐れがあります。
会社側が汎用的なチェックリストを持っておき、必要に応じてカスタマイズできるようにしておくとスムーズです。

チェック項目例:

  • 顧客対応の進捗、連絡先一覧
  • 帳票や書類の所在、電子ファイルの保存場所
  • 社内共有サーバーのフォルダ構造
  • システムやツールのログインID・パスワード(可能な範囲)
  • 外部業者との契約内容・担当者情報
  • 未処理のタスクや案件の現状
  • 引き継ぎ資料そのものの保存場所

リスト化して書面で残すことで、万が一のトラブル時にも「会社として適切に指示していた」ことの証明になります。


引き継ぎ指示のポイント③:定期的な進捗確認

計画とチェックリストを整えても、進捗管理を怠ると引き継ぎは思うように進みません。
人事担当者や直属の上司は、最低でも週1回のミーティング を設け、進捗状況をヒアリングしましょう。

この際に重要なのは、進捗を 「見える化」 することです。
たとえば、

  • 業務ごとの引き継ぎ状況を一覧化して「完了」「未完了」を色分け
  • 進捗に遅れがあれば追加の対応策を決める

進捗管理表を部署メンバーとも共有し、全員で状況を把握する仕組みをつくると、退職者任せにならずに済みます。


引き継ぎ指示のポイント④:後任研修の場を設ける

書類やチェックリストだけでは、細かいノウハウまで伝わらないことがあります。
特に属人化した業務が多い場合は、OJT形式の引き継ぎ研修 を計画的に組み込むことが大切です。

  • 後任者と退職者の時間を調整し、現場で一緒に作業する機会を確保
  • 業務マニュアルが無い部分を洗い出し、後任者が理解できるように補足説明を受ける
  • 周囲のメンバーも交えて、知見を共有する場をつくる

後任者だけでなくチーム全体で情報をカバーできるようにしておくと、退職後の混乱を最小限に抑えられます。


トラブル対応:引き継ぎ拒否や協力不足の場合

まれに退職者が「もう辞めるのだから」と引き継ぎに協力しないケースもあります。
こうした場合の対処も、会社側として知っておくと安心です。

まず前提として、引き継ぎは業務命令に含まれるため、協力を拒否することは契約違反になり得ます。
しかし、実際に損害賠償請求をしても現実的には回収が困難で、時間やコストがかかります。

そのため最善策は、予防協力を得る工夫 です。

  • 退職願を受理する際に、丁寧に引き継ぎ協力をお願いする
  • 「最後まで責任を果たしてもらうことが評価や給与に影響する」と説明する
  • 無理なスケジュールを組まない(相手に無理をさせないことで協力的になってもらいやすい)

また、退職前に体調を崩して長期休職に入ってしまう場合もあります。
このリスクを減らすために、できる限り早めに引き継ぎを進めておくことが重要です。


円滑な引き継ぎのための社内環境

そもそも急な退職でも慌てないようにするためには、日頃から 業務の属人化を防ぐ仕組み を整えておくことが大切です。

  • 部署ごとに簡易マニュアルを作成しておく
  • 業務フローを可視化する
  • 社内共有のファイルサーバーに必要な資料を集約する
  • 定期的に業務棚卸しをしてリスクを点検する

「引き継ぎの負担を減らす社内文化づくり」は、会社のリスクマネジメントの一部です。
hikitsugi.comとしては、こうした仕組みづくりをお手伝いするツールやテンプレートもご紹介しています。必要に応じて活用を検討してみてください。


まとめ

引き継ぎは、会社にとって 事業継続の最後の関門 です。
退職者に丸投げするのではなく、会社側が計画を立て、チェックリストで内容を明確にし、進捗を見える化してサポートする姿勢が何より大切です。

そして、退職者にとっても「最後まで気持ちよく協力できる環境」をつくることで、円満退職が実現します。

いざというとき慌てないために、ぜひ今回のポイントを参考に、引き継ぎマニュアルやチェックリストを整えておきましょう。

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この記事を書いた人

国立大学の経済学部を卒業後、新卒で商社に入社し人事を担当。
その後、人材企業⇛コンサルティングファームにて一貫して人事に関わる業務をする傍らHikitsugi-assistを運営しています。

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