顧問社労士の交代時に必要な引き継ぎとは?企業側担当者が知っておきたい5つの注意点(給与計算から制度設計まで)

目次

はじめに

会社の労務管理をサポートしてくれる存在として、顧問社労士は非常に重要なパートナーです。
しかし、担当者の対応に不満があったり、報酬に見合ったサービスが受けられていなかったりと、何らかの理由で顧問社労士を交代したいと考えることもあるでしょう。

ただし、社労士の変更には「意外と面倒な引き継ぎ」がついてまわります。
社会保険の手続き、帳票の管理、就業規則の履歴、労働基準監督署への届出対応など、さまざまな情報が旧社労士のもとに蓄積されているため、それをきちんと整理してから次の顧問に引き継がなければなりません。

この記事では、顧問社労士の交代時に必要な引き継ぎの注意点を、5つのポイントに分けて解説します。
人事・経理担当者の方がスムーズに交代を進めるための準備や、トラブルを防ぐ工夫についてもご紹介します。


ポイント1:現在の契約内容と業務範囲を洗い出す

まず最初にすべきは、現在の社労士がどこまで業務を担っているのかの棚卸しです。
契約書や覚書を確認し、以下のような業務範囲を明確にしておきましょう。

  • 社会保険・雇用保険の手続き代行
  • 労働保険の年度更新
  • 社会保険の算定基礎届
  • 就業規則の作成・変更対応
  • 労使協定の作成・提出
  • 助成金申請の支援
  • 給与計算の有無(含むかどうか)

特に中小企業では、「実態としてやってくれていたけど契約上は曖昧」なケースも多く見受けられます。
ここでしっかり整理しておくことで、新たに依頼する社労士との契約トラブルや、業務の引き継ぎ漏れを防げます。


ポイント2:前任社労士への対応を丁寧に進める

社労士変更にあたり、**最も慎重になるべきなのが「前任社労士への連絡」**です。
契約解除や引き継ぎ依頼のタイミング、言い方によっては関係が悪化し、スムーズに資料がもらえなくなるリスクもあります。

対応のポイントは以下の通りです。

  • 契約終了の1か月以上前には連絡し、書面で通知する(解除通知書)
  • 感謝の意を伝えたうえで、「今後の体制変更」として説明する
  • 引き継ぎに必要な書類の一覧を添えて、協力をお願いする
  • 終了月の顧問料精算や、未了業務の取り決めを明確にしておく

また、「紛争性がある場合」は引き継ぎが拒否される可能性もあるため、労務トラブルや報酬未払いなどがある場合は、事前に弁護士に相談しておくことも検討しましょう。


ポイント3:必要書類・情報をリスト化して準備する

社労士の交代では、想像以上に多くの情報が関係します。
前任からの資料が不十分だと、新しい社労士が再度全てを作り直すことになり、工数も費用も余計にかかってしまいます。

以下のような「引き継ぎリスト」を作成し、社内でも共有しておくと安心です。

主な引き継ぎ書類・情報例:

  • 就業規則・各種規程(最新版、過去版)
  • 過去の労使協定、届出書類(36協定等)
  • 社会保険・雇用保険の加入状況一覧(従業員名簿)
  • 労働保険番号、事業所整理番号
  • 電子申請時のID・パスワード(e-Gov、GビズID等)
  • 過去の指導・是正内容(監督署対応など)
  • 助成金申請の履歴や対応状況

会社の規模によっては、過去の給与台帳や賞与支給明細、年度更新・算定基礎届の控えなども含まれます。
チェックリストとしてまとめておくことで、新任社労士に一括で共有しやすくなります。


ポイント4:社内業務とのすり合わせも忘れずに

社労士の交代は外部委託先の変更であると同時に、社内の体制にも影響を与える点に注意が必要です。

たとえば、

  • 勤怠管理ソフトや給与ソフトとの連携はどうするか
  • 申請フロー(社会保険、入退社、扶養変更など)の変更有無
  • 新社労士との連絡窓口は誰にするか
  • 社内担当者がどこまで対応するか(役割の再整理)

など、単なる社労士の「入れ替え」では済まない実務面の調整が発生します。

特にクラウド型の人事労務ツール(SmartHR、freee人事労務、マネーフォワードクラウドなど)を使っている場合、社労士が操作する範囲と社内担当が操作する範囲を明確にしておくことが重要です。


ポイント5:引き継ぎスケジュールと責任分担を明確にする

社労士の交代は「一日で完了するもの」ではありません。
以下のようなスケジュール感で、段階的な引き継ぎと移行期間の管理を行いましょう。

時期内容
〜1か月前前任社労士に解除通知、引き継ぎ依頼書の送付
2〜3週間前必要書類の受領・社内整理
1〜2週間前新任社労士との顔合わせ・業務すり合わせ
当月委任状・業務委託契約の締結、ID連携など初期設定
翌月〜実務スタート(手続き、帳票確認など)

また、「誰が何を担当するか」を明確にしておくこともトラブル予防になります。
たとえば:

  • 人事担当:必要書類の収集と新任社労士への橋渡し
  • 経理担当:顧問料の精算、請求管理
  • 新任社労士:社会保険手続きの切替準備
  • 前任社労士:未了業務の整理、資料返却

このように責任分担を見える化しておくと、スムーズに交代を進められます。


📩 社労士交代時のメールテンプレート


①【前任社労士への連絡用(フォーマル・角が立たない)】

件名:顧問契約終了のご連絡と引き継ぎのお願い

yamlコピーする編集する〇〇社労士事務所  
代表 〇〇 先生

いつも大変お世話になっております。  
株式会社〇〇の△△です。

このたび、弊社の労務体制の見直しに伴い、  
御事務所との顧問契約を〇年〇月末をもって終了させていただく運びとなりました。

これまで多大なご支援を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。

つきましては、次期顧問社労士への業務引き継ぎに関し、  
以下の書類・情報をご提供いただけますようお願い申し上げます。

---

【ご提供いただきたい資料の例】  
・就業規則・各種規程(最新版および変更履歴)  
・社会保険・雇用保険加入状況一覧(従業員リスト)  
・労働保険番号、事業所整理番号  
・過去の労使協定、36協定等の控え  
・電子申請のID・PW(必要な範囲で)  
・その他、貴事務所で保管されている関連資料一式

---

引き継ぎにあたり、ご不明点やお手数おかけする部分があれば柔軟に対応いたしますので、  
ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

末筆ながら、今後のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。

敬具

――――――――――――  
株式会社〇〇  
総務部 △△(氏名)  
メール:xxxx@example.co.jp  
電話:03-1234-5678  
――――――――――――

②【新任社労士への初回連絡(引き継ぎ資料の送付とスケジュール調整)】

件名:顧問契約の開始および引き継ぎに関するご連絡

yamlコピーする編集する〇〇社労士事務所  
〇〇 先生

お世話になっております。株式会社〇〇の△△です。

このたび、貴事務所と顧問契約を締結させていただく運びとなり、  
誠にありがとうございます。

前任の社労士事務所との契約終了に伴い、以下のように業務の引き継ぎを進めてまいりたく、  
日程調整および必要資料のご確認をお願い申し上げます。

---

【ご提供予定の資料(前任事務所より入手予定)】  
・就業規則および社内規程類  
・従業員名簿(保険加入情報含む)  
・36協定、労使協定関係書類  
・労働保険・社会保険の加入情報  
・電子申請関連ID等

---

なお、初回打ち合わせについては以下の日時候補で調整できればと考えております。

・〇月〇日(〇)10:00~  
・〇月〇日(〇)14:00~  
・〇月〇日(〇)終日可

ご都合の良い日程がございましたらご返信いただけますと幸いです。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

敬具

――――――――――――  
株式会社〇〇  
総務部 △△(氏名)  
メール:xxxx@example.co.jp  
電話:03-1234-5678  
――――――――――――

まとめ

顧問社労士の交代は、単なる契約先の変更ではなく、会社の「労務インフラ」を入れ替える作業とも言えます。
そのため、引き継ぎが不十分だと、保険手続きの遅れや就業規則の抜け漏れ、法対応ミスといったトラブルにつながるリスクも。

社内外の信頼関係を保ちながらスムーズに移行するには、

  • 業務範囲の明確化
  • 前任社労士への丁寧な対応
  • 情報の整理と引き継ぎリストの活用
  • 社内体制との調整
  • スケジュールと責任分担の管理

がポイントになります。
顧問社労士の交代に不安がある方は、ぜひ活用して、トラブルなく新体制へと移行してください。

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この記事を書いた人

国立大学の経済学部を卒業後、新卒で商社に入社し人事を担当。
その後、人材企業⇛コンサルティングファームにて一貫して人事に関わる業務をする傍らHikitsugi-assistを運営しています。

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