はじめに
出向や転籍といった人事異動は、企業にとっても従業員にとっても大きな転機となります。その中で、意外と見落とされがちなのが「有給休暇の取り扱い」。
「有給はリセットされるの?」「転籍前に全部使い切る必要がある?」「出向先で新たに付与される?」など、現場では混乱するケースも多く見受けられます。
この記事では、出向・転籍と有給休暇の関係について、法制度の概要から実務上の運用、そして引き継ぎの際の注意点まで幅広く解説します。人事担当者の方はもちろん、実際に出向・転籍される従業員の方にも役立つ内容となっていますので、ぜひご一読ください。
出向・転籍の基本的な違い
まず、有給休暇の取り扱いに影響する「出向」と「転籍」の違いを明確にしておきましょう。
出向とは
出向とは、雇用関係を維持したまま他の会社で働く形態です。
多くの場合、出向元(元の会社)と出向先(新しい勤務先)の間で契約が交わされ、労働者は指揮命令を出向先から受けつつ、雇用契約自体は出向元と継続します。
- 給与の支払いや社会保険の手続きは出向元が行うことが一般的
- 人事評価や昇進も出向元で管理されることが多い
転籍とは
転籍とは、雇用契約そのものが新しい会社に移る(解約・再契約)という形態です。
いったん出向元の会社を退職し、転籍先の会社と新たに雇用契約を結ぶため、法律上は「退職→再就職」という扱いになります。
- 給与や社会保険、労働条件は転籍先にすべて移管
- 勤続年数や評価も、転籍先のルールによって異なる
この違いが、有給休暇の取り扱いに大きく影響します。

有給休暇の法的な基本ルール
有給休暇の付与要件
労働基準法では、以下の条件を満たした場合に有給休暇が付与されます。
- 雇入れ日から6か月継続勤務
- かつ、その間の出勤率が8割以上
この条件を満たせば、原則として10日間の年次有給休暇が付与されます。以降は、勤続年数に応じて増えていく仕組みです。
出向時の有給休暇の取り扱い
出向は雇用契約が出向元に残るため、有給休暇の管理・付与は基本的に出向元が行います。
出向元が有給休暇を管理
- 有給休暇の残日数も、出向元で保持されます
- 申請や取得手続きも、出向元の規定に従う必要があります
- ただし、実際の運用(申請や取得承認)は出向先の上司が行うケースが一般的です
よくある現場の運用パターン
- 出向前に「有給を消化してから出向してください」と言われることもありますが、法律上の義務ではありません
- 出向期間中も、有給休暇は取得可能。ただし、出向先との調整が必要なため、現場では取得しづらくなることも
転籍時の有給休暇の取り扱い
転籍の場合は雇用契約が切り替わるため、基本的には有給休暇はリセットされます。
原則:未消化分は消滅
- 有給休暇はあくまで「雇用主との契約に基づく権利」のため、元の会社を退職すると消滅します
- よって、転籍前にすべて使い切ることが推奨されます
例外:転籍先で引き継がれる場合も
ただし、以下のようなケースでは転籍先で有給日数を引き継ぐ場合があります。
- グループ企業間での転籍
- 転籍元・転籍先で人事制度の統一が進んでいる
- 転籍元が「退職扱いではなく内部異動扱い」として制度設計している
この場合、法的な義務はないものの、就業規則や社内ルールに基づき有給が引き継がれることもあります。

人事担当者が気をつけたい実務ポイント
有給の取り扱い方針を明示しておく
出向・転籍を伴う異動時には、以下のような説明を事前に行うと、トラブル防止につながります。
- 出向・転籍の区別とそれぞれの定義
- 有給休暇の取り扱い方針(引き継ぐか、消化するか)
- 申請フローや承認ルートの変化
システム管理・勤怠連携の見直し
- 勤怠システムで有給日数が正しく管理されているか
- 出向先でもスムーズに申請・取得できるようになっているか
- 管理部門が二重でチェックできる仕組みを用意する
引き継ぎの観点:有給情報の扱い方
引き継ぎ書に含めるべき情報
- 有給休暇の残日数と取得予定
- 出向・転籍前に取得すべき日程(もし指示がある場合)
- 有給に関する社内ルールの抜粋(出向先・転籍先に伝えるため)
現場での運用で気をつけたいこと
- 出向先・転籍先の担当者が「有給はゼロからスタート」と誤認してトラブルになることがある
- 特に転籍時は、雇用契約が切り替わる=有給が失効するという点を、本人にも明確に説明する必要があります

まとめ
出向や転籍は、従業員のキャリアにおいても重要な転機ですが、有給休暇の取り扱いについては企業側の対応次第で大きく変わってきます。
とくに転籍においては、有給の失効が思わぬ不満やトラブルを招くこともあるため、あらかじめ制度を整備し、丁寧な引き継ぎと説明を行うことが重要です。
人事担当者の方は、出向・転籍を円滑に進めるためにも、法制度だけでなく現場運用とのギャップに目を向けておくことをおすすめします。
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