はじめに
業務の引き継ぎは、単なる業務移行にとどまらず、企業にとっての知識資産の継承にほかなりません。しかし、現場任せの属人的な引き継ぎでは、ノウハウの損失や業務の停滞を招くこともあります。
このような課題に対し、経営学では「ナレッジマネジメント(KM)」という考え方が注目されています。本記事では、経営理論の視点から、引き継ぎの最適解を探っていきます。
ナレッジマネジメントとは?
知識を創造・共有・活用・蓄積するプロセス
ナレッジマネジメントは、個人の知識を組織全体の力に変えるための手法です。単なる情報共有ではなく、知識を価値ある資産として戦略的に扱うのがポイントです。
SECIモデル(野中郁次郎教授による理論)
KMの代表的理論が「SECIモデル」。
- S(共同化):暗黙知を他者と共有(例:OJT、会話)
- E(表出化):暗黙知を形式知に変換(例:マニュアル化)
- C(連結化):形式知を組み合わせて体系化(例:社内Wiki)
- I(内面化):形式知を再び暗黙知として身につける(例:実践による習得)
引き継ぎはまさに、S→E→C→Iの流れをいかに設計できるかがカギになります。
引き継ぎが失敗する根本原因
暗黙知が言語化されていない
「この仕事は感覚的な判断が多い」「口頭でしか説明していない」といった状況では、引き継ぎは属人的になり、再現性が失われます。
共有の場が設計されていない
知識が個人で完結してしまい、他者に自然と伝わる仕組みがないと、引き継ぎのたびにゼロからのスタートになります。
マネジメントの意識が低い
引き継ぎを「一担当者の責任」と捉えてしまうと、全社的なナレッジ蓄積が進みません。マネジメント層が引き継ぎを戦略的テーマとして扱う必要があります。
経営学の視点で見る「引き継ぎの最適解」
暗黙知を共有する仕組みを持つ
- OJTやピアレビュー、日報・週報の共有など、自然な知識交換の場を設ける
- 例:「この作業、こういう工夫をしてます」と気軽に伝えられるSlackチャンネル
形式知化をルール化する
- マニュアル作成や業務記録を“業務の一部”として組み込む
- テンプレート・ツールを用意して負担を減らすことがポイント
ナレッジの構造化・アクセス性の向上
- 社内Wiki、Notion、Googleドライブなどのナレッジベースを整理し、検索性を高める
- 「誰でも見つけられる」「常に最新」が引き継ぎ精度を高める鍵
再学習と内面化の機会をつくる
- 新任者へのフォローアップ期間を設け、習得状況を見える化
- eラーニングや動画による補足教材も効果的
ナレッジを“戦略資産”として位置づける
- ナレッジマネジメントを人事評価やOKRに紐づけることで、全社的な推進力をつける
- 「引き継ぎできる人材=再現性ある成果を出せる人材」として評価する
まとめ
引き継ぎを最適化するには、経営学におけるナレッジマネジメントの視点が欠かせません。個人の知識を組織の力に変えるためには、「共有→形式化→体系化→実践」のプロセスを仕組みとして整えることが重要です。
引き継ぎは、“最後の業務”ではなく“次の成果の起点”。経営戦略の一環としてナレッジを扱うことで、強く学び続ける組織をつくっていきましょう。
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