はじめに
IFRS(国際財務報告基準)の導入は、企業にとって単なる会計処理の変更ではなく、経営の根幹に関わる大きなプロジェクトです。特に、日本基準からIFRSに移行する場合、各部署を巻き込んだ大規模な対応が求められるため、制度対応が個人や属人化に頼っていると、導入後の混乱が避けられません。
本記事では、IFRS導入に際してプロジェクト型の引き継ぎ体制をどう設計すべきかについて、実践的なポイントを紹介します。
プロジェクト型で進めるべき理由
影響範囲が広い
IFRS導入は財務経理部門にとどまらず、営業・購買・システム・人事など多くの部門に影響を及ぼします。そのため、特定の担当者だけが知識を持っている状態では、制度開始後の実務に支障が出ます。
多数の判断が伴う
IFRSには「原則主義」が多く採用されており、ケースバイケースの判断が必要です。その背景や判断ロジックを明文化せずに引き継ぐと、後任が混乱します。
長期にわたるプロジェクト
制度対応は数か月~1年以上にわたる長期プロジェクトになることもあり、途中で異動や退職が発生する可能性が高いため、途中で誰が抜けても対応が止まらない仕組みが求められます。
引き継ぎ体制の設計ポイント
コアメンバーと業務オーナーの明確化
- IFRS導入プロジェクトに関わる主担当者を部門横断で明確に定義
- コアメンバーには、制度解釈・社内展開・監査対応の役割を明確に割り振る
- 各論点の業務オーナーを指定し、判断・運用の責任を明確にする
ナレッジ管理の一元化
- NotionやSharePointなどのナレッジ管理ツールを用い、議事録・資料・判断経緯を集中管理
- 決定事項には必ず背景・代替案・検討経緯も記載し、後任でも理解できるようにする
- システム改修や帳票変更に関する要件定義も含める
ロールプレイングによる引き継ぎ訓練
- 引き継ぎ先が単なる資料の読み手にならないよう、想定Q&Aやケーススタディを使ったロールプレイングを実施
- 「○○の場合はどう処理する?」といった実践的な対応力を引き継ぐ
ステークホルダーとの関係性も可視化
- IFRS導入は監査法人・社内IT・海外子会社など複数の関係者との調整が必要
- 過去のやり取り、調整済み事項、合意形成の経緯を記録し、誰が何を交渉してきたかを共有
失敗しないための補助的工夫
引き継ぎテンプレートの活用
- 業務内容だけでなく、「この業務はなぜIFRS導入に影響するのか」という観点を含めたテンプレートを準備
- 各メンバーが記入すべき最低限の項目を定義(例:目的/判断ポイント/懸念事項/完了予定日)
プロジェクト全体の可視化
- ガントチャートやタスク管理ツール(Asana、Backlogなど)を活用して進捗を可視化
- 途中参加のメンバーでも、全体像と自分の役割が把握できる仕組みを構築
後任をプロジェクトに巻き込むタイミングの前倒し
- 担当者が異動・退職する直前にバトンを渡すのではなく、1〜2か月前から「引き継がれる側」も実際の対応に関与させておく
まとめ
IFRS導入のような全社的な制度改正では、引き継ぎの失敗が業務遅延や誤解を招くリスクにつながります。そのためには、「担当者が変わっても、チームで知識を保持し、判断を再現できる」プロジェクト型の体制が不可欠です。
引き継ぎを「個人のタスク」から「組織の設計課題」へと捉え直し、制度対応に強いチームづくりを進めていきましょう。
関連リンク
- 日本公認会計士協会「IFRS適用に向けた実務対応」:https://jicpa.or.jp/specialized_field/ifrs.html
- 金融庁「IFRS対応に関するガイドライン」:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/20190621/01.pdf
- 経済産業省「IFRS導入の影響分析報告書」:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/2021_02.pdf
📌関連記事


