はじめに
新しい会計基準への対応では、専門的な判断や個別の経理処理が多く発生します。そのため、特定の担当者のスキルや知識に頼りきってしまう「属人化」が生じやすく、後任者が十分な情報を得られずに業務を引き継ぐと、重大なミスや監査対応の遅延につながることも。
本記事では、こうした属人化を回避し、誰でもスムーズに対応可能な体制を作るための引き継ぎ術を解説します。
「背景」まで含めたマニュアルを整備する
新会計基準への対応で最も重要なのは、処理ルールの表面的な説明だけでなく、「なぜそうしたのか」という背景の共有です。
属人化しやすいポイント:
- 判断に至った経緯(社内会議、監査法人とのやり取り)
- 複数案の中から選んだ理由
- 「例外対応」や「現場からの要望」を反映した履歴
対策:
- 通常の業務マニュアルに加えて「判断の履歴・ロジック」を補足資料として残す
- PowerPointやNotionなどを活用し、ストーリー形式で共有する
「共有フォルダ」ではなく「ナレッジベース」に情報を統合
ExcelやWordファイルがバラバラに置かれているだけでは、後任者が情報を探し出すのに時間がかかります。
属人化の温床になる例:
- 過去資料のファイル名が曖昧で見つからない
- 引き継ぎ時に「全部フォルダに入ってます」と言われても探せない
対策:
- 情報を構造化して管理できるナレッジツール(例:Notion、Confluence)を活用
- 「会計基準ごと」「論点ごと」「監査対応ごと」など、目的別の分類で整理
- フォルダ名やドキュメントに説明文をつける
引き継ぎの場に「第三者」を同席させる
後任者との1on1の引き継ぎでは、どうしても話が省略されたり、主観が混ざったりすることがあります。
ありがちな問題:
- 話が専門的すぎて後任者が質問できない
- 「自分のやり方」を伝えてしまい、客観性がない
対策:
- チームリーダーや人事など第三者が引き継ぎに同席し、内容を客観的に把握
- 引き継ぎ内容をその場で議事録に残し、ナレッジとして活用
- その場限りにせず、社内イントラに残すことを徹底
判断基準や判断フローを「図解」する
複雑な会計処理や判断の分岐点は、文章だけでは正しく伝わりにくく、属人化の原因になります。
改善ポイント:
- 「こういう場合はA処理、こういう場合はB処理」と言語で説明しても混乱しやすい
対策:
- フローチャートや判断ツリーで視覚的に示す
- 過去に判断が分かれたケースを「事例集」として残す
- 図のバージョン管理を行い、更新履歴も共有
形式的でない「レビュー文化」を根付かせる
属人化を防ぐ最も根本的な方法は、「1人で判断しない」組織文化をつくることです。
ありがちな落とし穴:
- 担当者がプレッシャーから1人で判断してしまい、その判断がブラックボックス化
対策:
- 判断が必要な業務は必ずチームレビューを行う運用を定着させる
- レビュー結果をナレッジベースに記録し、後任にも見える形で共有
- 定期的な業務棚卸しの場で、判断基準が属人化していないか確認
まとめ
制度改正というイレギュラーな対応こそ、引き継ぎの設計に差が出ます。 属人化を避けるためには、「情報の見える化」と「判断理由の蓄積」が不可欠です。
誰が見ても理解できる・誰が対応しても再現できるような仕組みを整えておくことで、新会計基準の運用も安定し、担当者の異動・退職にも動じない強い経理組織が実現できます。
地道な整備こそが、次の制度改正にも耐えうる「ナレッジ資産」をつくる第一歩なのです。
参考リンク
- 金融庁「収益認識に関する会計基準」:https://www.fsa.go.jp/news/2021/20210331-2.html
- 日本公認会計士協会「新会計基準の解説」:https://jicpa.or.jp/specialized_field/20210331.html
- 経済産業省「IFRS適用に関する企業向けガイドライン」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/accounting/ifrs/index.html
📌関連記事


