はじめに
新しい会計基準への対応は、企業にとって避けられない変化のひとつです。収益認識基準やリース基準、会計上の見積もりの変更など、制度改正の波は経理・財務部門に大きな影響を与えます。
その中でも見落とされがちなのが「引き継ぎ」の重要性。制度対応を担っていた担当者が異動・退職・育休などで離れる場合、後任者が改正内容を理解できておらず、誤った処理や監査対応の遅延につながるリスクがあります。
この記事では、新会計基準への対応において引き継ぎ時に特に注意すべきポイントを解説します。
会計方針の変更内容と背景を正確に共有する
新基準への対応でまず必要になるのが、社内で定めた会計方針の明文化です。特に収益認識基準などでは、適用するにあたっての自社独自の判断や前提条件が存在する場合があります。
引き継ぎ時に伝えるべき内容:
- どの会計基準がいつから適用されたか
- 自社が選択した会計処理方針とその根拠(社内会議・監査法人との議論など)
- 社内ガイドライン・マニュアルの場所
これらが口頭での説明や過去メールに埋もれてしまうと、後任者は「何が基準なのか」がわからず混乱します。
対策:
- 方針決定の議事録や監査法人とのやりとりを共有フォルダに保管
- 引き継ぎ資料に「会計基準変更まとめ」ページを設ける
過去との比較表や移行調整の記録を残す
新基準適用にあたっては、過去期間との比較や移行措置の対応が発生します。これらの計算根拠や調整仕訳の背景は、制度変更直後には特に重要です。
よくあるトラブル:
- 比較可能性の説明ができず、監査法人から再説明を求められる
- 引き継ぎ後に「なぜこの修正仕訳を入れたのか」が誰にもわからない
対策:
- 旧基準と新基準の差異をまとめたExcel表を引き継ぎ資料に添付
- 「当初の移行時の考え方・注意点」などをドキュメント化
特に開示資料との整合性は後任者が最もつまずきやすいポイントです。
会計システム設定の変更内容を明示する
新しい会計基準の適用に伴い、勘定科目や補助コード、システム上の帳票設定なども変更されるケースがあります。
見落とされがちなのが、システム設定の履歴と背景です。 「誰がいつ、どのような設定変更をしたか」「テスト運用はどうしたか」が明確でないと、後任者はトラブルシュートができません。
対策:
- 会計システムの変更履歴をまとめた「設定変更ログ」を残す
- ベンダーとのやり取り・マニュアルをフォルダに保存
特に期中での変更や、過渡期に発生した臨時対応は要注意です。
業務フローや関係部門への影響も引き継ぐ
新基準への対応は経理部門だけで完結する話ではありません。売上認識のタイミング変更により、営業部門や現場オペレーションにも影響が出るケースも。
後任者に伝えるべき内容:
- 関係部門と取り決めたルール(例:請求タイミングの調整)
- 社内説明資料や共有会議の記録
- トラブル事例とその対応策
対策:
- 「制度改正時の社内対応まとめ」として時系列で整理する
- 関係者チャットログや議事メモをナレッジベースに統合
監査対応のポイントと懸念事項を記録
新基準導入後は、監査法人とのやりとりや内部統制の評価も変化します。引き継ぎ時に監査対応の過去経緯をしっかり残しておくことで、同じ質問や修正指摘を受けるリスクを減らせます。
伝えるべき項目:
- 監査法人からの指摘事項と対応履歴
- 改正後に重点確認された論点(例:収益認識のタイミング)
- 来期以降に向けた監査上の留意点
対策:
- 監査調書やレビューメモを引き継ぎファイルに含める
- 会計方針と併せて社内レビューのコメントも共有
まとめ
新会計基準の適用は一度きりではなく、継続的な運用・見直しが必要です。そのためにも、制度改正の初動対応を担当したメンバーの知見を丁寧に引き継ぐことが、将来的なミスや混乱を防ぐ最大の対策となります。
属人化させず、背景・判断・トラブルの履歴を「資産」として残す引き継ぎを行いましょう。それが制度改正の“地雷”を踏まないための最も確実な一歩です。
参考リンク
- 金融庁「収益認識に関する会計基準」:https://www.fsa.go.jp/news/2021/20210331-2.html
- 日本公認会計士協会「新会計基準の解説」:https://jicpa.or.jp/specialized_field/20210331.html
- 経済産業省「IFRS適用に関する企業向けガイドライン」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/accounting/ifrs/index.html
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