間違いやすい「事業承継」と「事業継承」──意味と使い方の本質を専門家が解説

目次

はじめに

「事業承継」と「事業継承」──
似たような言葉ですが、正確には意味が異なります。経営者の引退や交代のタイミングで使われるこれらの言葉、実はそれぞれ異なる側面を持つ概念なのです。

特に中小企業においては、次の世代へ会社を引き継ぐ際に、単なる“社長の交代”にとどまらず、「事業そのものの価値」をどう受け渡すかが重要になります。

この記事では、「事業承継」と「事業継承」の意味の違いや使い分け、そしてそれぞれに含まれる要素をわかりやすく解説します。


事業承継とは?制度的な“引き継ぎ”の全体像

1. 「事業承継」は制度上の正式な用語

まず押さえておきたいのは、「事業承継」という言葉は中小企業庁をはじめとする公的機関が正式に用いている用語だということです。
中小企業の経営者が交代する際、その引き継ぎ全般を指して「事業承継」と呼びます。

2. 何を承継するのか?

事業承継に含まれる主な要素は以下のとおりです。

  • 経営権(代表権、取締役などの地位)
  • 株式・出資(オーナーシップの移転)
  • 組織運営・人事権限
  • 財務・契約関係
  • 社内外の関係性(顧客、取引先、銀行等)

つまり、「会社という組織を構成するあらゆる資源を次の経営者へ引き継ぐこと」が事業承継の本質です。

3. なぜ「事業承継」が重視されるのか?

少子高齢化に伴い、中小企業の後継者不足が深刻な課題になっており、経営の引き継ぎが社会的にも大きなテーマになっています。
その中で、「事業承継」は企業存続・地域経済の安定・雇用維持といった視点からも重要な政策課題となっています。


事業継承とは?理念や想いを受け継ぐ“目に見えない承継”

1. 継承は「理念」「価値観」の引き継ぎ

一方で「事業継承」という言葉は、経営理念や創業者の想い、企業文化など、“目に見えない価値”を次世代に受け渡す行為を意味することが多いです。

たとえば、

  • 「社員を大切にする経営姿勢」
  • 「創業の精神」
  • 「地域密着のスタンス」
  • 「品質にこだわる哲学」
    などは書類で移せるものではなく、人を通じて“伝える”ことが必要になります。

2. 継承ができていないとどうなる?

仮に会社の資産や株式だけをスムーズに承継しても、創業者の想いや理念がまったく引き継がれていない場合、「会社の魂が抜けたような経営」になってしまうことも。

  • 社員のやる気が下がる
  • 顧客や地域からの信頼を失う
  • 経営方針が迷走する
    といった問題につながることがあります。

「承継」と「継承」のどちらが正しいのか?

1. 一般的には「事業承継」が正式用語

行政機関、中小企業支援機関、金融機関などでは、**「事業承継」**という用語が標準で使われています。
助成金・補助金・支援制度もすべて「事業承継支援」として設計されており、制度上は「承継」が正確な表現です。

2. ただし「継承」も無視できない

とはいえ、実際の事業承継の場面では、「事業継承」と呼ばれることも多く、“気持ちや精神性を引き継ぐ”ニュアンスがある言葉として根強く使われています。
文章表現としてあえて「継承」と書くことで、理念の重要性を強調するケースもあります。

3. 両方そろって初めて“真の承継”になる

実務上は、「承継(仕組み)」と「継承(想い)」の両方があってこそ、本当に価値ある事業引き継ぎが実現すると言えるでしょう。


まとめ:承継と継承、どちらも欠かせない“事業の引き継ぎ”

最後にもう一度、両者の違いを整理しておきましょう。

観点事業承継事業継承
意味経営権・株式・資産など、形式的・制度的な引き継ぎ経営理念・文化・価値観など、精神的な引き継ぎ
主体行政・支援機関が使う正式用語感情・意思の継続に関わる文脈で使われやすい
重要性企業存続のために必須組織の一体感・ブランド継続に不可欠
実務上の扱い法律・制度的支援がある非公式だが実務では非常に重要

おわりに

中小企業にとっての事業の引き継ぎは、単なる手続きや書類作業ではありません。
**「何を残したいのか」「誰にどう引き継ぐのか」**という深い問いと向き合うプロセスでもあります。

制度としての「事業承継」と、理念としての「事業継承」──
この両方を意識しながら、自社にとって最もふさわしい形の承継を進めていくことが、これからの企業経営に求められているのです。

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この記事を書いた人

国立大学の経済学部を卒業後、新卒で商社に入社し人事を担当。
その後、人材企業⇛コンサルティングファームにて一貫して人事に関わる業務をする傍らHikitsugi-assistを運営しています。

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