はじめに
昇進・昇格と違い、降格の場面は当事者にとって大きなショックを伴います。
「自分の存在意義が失われた気がする」「後任にどう引き継げばいいのか分からない」と戸惑う人も多いのではないでしょうか。
逆に、降格された側が業務を手放さずに抱え込んでしまい、周囲との軋轢が生じるケースも珍しくありません。
企業としては、降格によって組織の立て直しを図る以上、役割変更に伴う業務の引き継ぎを円滑に進めなければなりません。
しかし、ただ「業務を渡して」と伝えるだけでは、当事者の気持ちを逆なでし、引き継ぎが滞るリスクがあります。
この記事では、降格時に必要な引き継ぎを 「プライドを尊重しつつ円滑に進めるコツ」 として、
当事者自身ができる工夫、上司・人事担当者が支援すべきポイントを具体的に整理します。
降格時の引き継ぎが難しくなる理由
降格時の引き継ぎがスムーズに進まない背景には、主に以下のような要因があります。
- 心理的ショックが大きい
降格は人事処分の一つとして受け止められるため、「評価されなかった」「自分の力が足りなかった」という否定的な感情が強くなります。
自信を失い、後任に情報を渡す気力を失ってしまう人も多いです。 - プライドの問題
自分が築き上げた仕事を後任に渡すことで、「自分がいなくても回る」と感じるのがつらい、という声もあります。 - 属人化した業務が多い
マネジメント層や専門職ほど、属人的に抱えている知見が多く、マニュアル化されていないことが多いです。 - 降格者が業務を手放さない
一方で、「自分しかできない」と思い込んで引き継ぎを拒むケースもあります。
こうした要素を踏まえると、降格時の引き継ぎは「業務整理」だけでなく、心理的なケアと仕組み化 をセットで進めることが不可欠です。
降格者本人ができる引き継ぎの進め方|気持ちを切り替えるために
① 自分の役割を再整理する
降格は役割が変わるだけで、あなたの経験やスキルが全て否定されたわけではありません。
まずは、新しい役割で期待されていることと、これまで自分が担ってきた役割の境界を整理しましょう。
- どの業務を手放すべきか
- どの知見を残すべきか
- 新しい役割で求められていることは何か
紙に書き出して可視化すると、「引き継ぐべきこと」と「自分が引き続き担うこと」がはっきりします。
② 引き継ぎ先を信頼する
「どうせ後任は自分ほど上手くできない」と思ってしまうのは自然な感情です。
しかし、後任が自信を持って引き継げるように情報を渡すのは、長年その仕事を築いてきた自分だからこそできる貢献です。
自分の経験を残すことは、あなたの仕事の価値を未来につなげる行為でもあります。
③ 引き継ぎ資料を一度に完璧にしようとしない
降格時のメンタル状態で「全てを完璧にまとめる」のは負担が大きいです。
まずは最低限の整理リストを作り、その後、後任とOJTで補足しながら埋めていく方法を取りましょう。
上司・人事担当者ができる声掛け・支援のコツ
降格者のプライドを守りつつ引き継ぎを進めるには、上司や人事のフォローが不可欠です。
① 降格理由を納得感を持って伝える
突然の降格通告では、本人が状況を受け入れにくくなります。
できるだけ事前に状況を説明し、改善の余地や再チャレンジの機会があることを伝えましょう。
納得感がないまま引き継ぎを指示されても、本人のモチベーションは下がる一方です。
② 引き継ぎの目的を「未来志向」で伝える
「あなたの役割が不要になったから手放して」という伝え方ではなく、
「これまでの経験を後任に渡すことで、組織が強くなる」「あなたの知見を未来につなげてほしい」という形で、
降格者の貢献を前提にした声掛けを心がけましょう。
③ 引き継ぎの進捗は一人で管理させない
引き継ぎが滞る原因の一つは、「一人で抱え込んでしまう」ことです。
業務棚卸しのフォーマットを人事側で用意し、上司と週次で進捗を確認する仕組みにしておくと負担感が減ります。
引き継ぎを円滑にする仕組みの作り方
心理的フォローと合わせて、引き継ぎを滞らせないためには 仕組み化 が重要です。
● チェックリストを共有する
降格時も、通常の退職時と同様に、引き継ぎチェックリストが有効です。
- 業務リスト(顧客対応、内部管理、スケジュール)
- 管理資料の保管場所
- パスワード管理
- 社内ツールのマニュアル化
チェックリストに沿って整理していくと、本人が「何を渡すべきか」で迷わずに済みます。
● OJTで後任育成を並行する
特にマネジメント業務や専門知識が多い場合は、資料だけでは不十分です。
引き継ぎ期間中に後任と一緒に動きながら、実際の現場で伝える機会を設けましょう。
● 周囲の理解を得る
チームメンバーに対しても、降格者のプライドを守る配慮が必要です。
「今後は○○さんの経験を引き継いで、チームでより良い形にしていきたい」という前向きな説明を共有し、
後任が孤立しない環境を整えましょう。
降格後に再チャレンジできる環境づくり
一度降格したからといって、キャリアが終わるわけではありません。
「引き継ぎをきちんとやり切る」ことが、逆に評価につながり、
信頼を取り戻すチャンスになることもあります。
引き継ぎが終わった後、
- 新しい役割で成果を出す機会を与える
- 必要に応じてスキルアップ研修を用意する
- 定期面談でメンタルフォローを続ける
といったフォローをセットで用意することで、降格者のモチベーションを保ちやすくなります。
まとめ
降格時の引き継ぎは、業務整理だけでなく、当事者のプライドや心理面への配慮が欠かせません。
「何をどこまで渡すか」だけでなく、「どのように渡してもらうか」 を考えるのは、組織を預かる上司や人事の大切な役割です。
降格は誰にとっても辛いものですが、その後のキャリアを支えるためにも、
本人が最後まで気持ちよく役割を引き渡せるよう、仕組みと声掛けの両面でサポートしていきましょう。
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