はじめに
リテンション(Retention)とは、企業が優秀な人材を社内に引き留めるための施策や取り組み全般を指す言葉です。
少子高齢化、転職の一般化、副業・リモートワークの普及など、働き方が多様化している現代において、優秀な人材が長く働き続ける組織を作ることは、企業の競争力の維持・強化に直結します。
この記事では、リテンションの意味・目的・代表的な施策、導入手順、成功事例などを解説します。
リテンションの目的と意義
リテンション施策の導入には、以下のような企業側の明確な目的があります:
- 離職率の低下
- 採用・育成コストの削減、知的資産の社内蓄積。
- 社員のエンゲージメント向上
- 従業員の帰属意識やモチベーションを高める。
- 組織の生産性・競争力の維持
- 長期的な人材定着による計画的な事業運営が可能に。
厚生労働省の調査では、新卒3年以内の離職率は30%を超えると言われています。また、1人あたりの採用・教育にかかるコストは100万円〜300万円程度とされており、リテンション施策はその損失を抑えるための有効な打ち手です。
リテンション施策の代表例
リテンション施策は、大きく「金銭的報酬」「非金銭的報酬」「環境・文化づくり」に分類されます。
1. 金銭的報酬
- 適切な給与水準の設定: 業界・職種別の相場と比較して適正かつ納得感のある報酬設計。
- 成果連動型インセンティブ: 成果を出した人材を正当に評価する仕組みの整備。
- 福利厚生の拡充: 家賃補助、健康サポート、育児支援など、多様なニーズに対応。
2. 非金銭的報酬
- キャリア開発支援: 外部研修・資格取得支援・社内ジョブローテなどの学習機会の提供。
- 定期的な1on1ミーティング: 上司と部下の信頼関係を構築し、悩みや目標の共有を促進。
- 表彰制度の導入: 日頃の努力や貢献を見える形で認める文化を醸成。
3. 働きやすい環境づくり
- 柔軟な働き方の導入: テレワーク、フレックスタイム、副業許可など柔軟性の確保。
- 心理的安全性の醸成: 上司の傾聴力強化、ハラスメント対策、ピアフィードバック文化の定着。
- 職場の物理的な快適さ: フリーアドレス、休憩スペース、良好なオフィス環境の整備。

リテンションサービス例
日本CHRコンサルティング株式会社が提供する早期離職防止面談サービス
リテンション施策の導入ステップ
- 現状把握:
- 離職率、エンゲージメントスコア、社員満足度などの定量・定性データを取得。
- 課題特定と仮説立て:
- 離職原因を部署別・属性別に深掘りし、施策仮説を立てる。
- 施策の設計と実行:
- 対象者や優先度を定め、社内説明と合意形成を経て展開。
- 効果測定と改善:
- KPI(例:離職率・満足度スコア)を設定し、定期的に改善を実施。
リテンション施策の成功事例
ケース1:IT企業A社
若手社員の早期離職が課題だったA社では、以下の対策を講じました:
- 入社1年未満社員に月1回の1on1を実施
- 成長実感を得られるタスク設計+成果に対する即時フィードバック
- メンター制度の導入
結果、1年以内離職率が25%→8%に減少。
ケース2:製造業B社
管理職のエンゲージメント低下と離職が続いていたB社は、以下を導入:
- キャリア自律研修を全マネージャーに実施
- 柔軟なシフト勤務導入
- 組織横断のプロジェクト機会提供
これにより管理職の離職者ゼロを3年維持。
リテンション強化の落とし穴と注意点
- 一律施策では効果が出ない:個人の価値観に合わせた設計が必要。
- 形式だけの1on1や制度導入は逆効果:運用の質が問われる。
- 離職=悪と決めつけない:円満退職も1つのキャリア形成。
また、組織としてダイバーシティ&インクルージョンや人的資本経営を掲げる場合、リテンションの設計はより個別性・柔軟性を求められます。年齢、性別、家庭環境、障がいなど、背景の異なる社員が「ここで働き続けたい」と思えるような土壌が不可欠です。
リテンションと人的資本経営のつながり
人的資本経営が注目される現代において、リテンション施策は経営戦略そのものと直結しています。従業員のスキル、経験、信頼関係といった無形資産は、企業の中長期的な価値創造に欠かせない存在です。
たとえば、2023年から義務化された「人的資本の情報開示」では、離職率や従業員満足度、キャリア支援制度の有無などが重要な指標とされています。これらはすべてリテンションに直結する指標です。
つまり、従業員が「長く働きたい」と思える環境づくりこそが、投資家・取引先・社会から評価される組織の土台になるのです。
加えて、人的資本への投資は従業員エンゲージメントや業績にも影響を与えます。ギャラップ社の調査によると、エンゲージメントが高いチームは生産性が21%高く、欠勤率が41%低いという結果も出ています。これは裏を返せば、定着率が高い企業ほど経営効率も高まるということです。
こうしたデータを社内の経営層にも共有し、リテンション施策を「人事部だけのもの」ではなく「経営施策の一部」として捉える視点が不可欠です。
おわりに
人材獲得競争が激化する中、リテンションはもはや“あればいい施策”ではなく、“事業継続に不可欠な戦略”です。
従業員1人ひとりの想いや悩みに目を向け、個別最適と全体最適のバランスをとることが、これからのリテンションマネジメントには求められます。
Hikitsugi Assistでは、リテンション支援の一環として、業務の属人化防止や1on1設計テンプレート、引き継ぎサポートの仕組み化支援も提供しています。さらに、離職後のオンボーディングやOBOGネットワークの整備といった“再接続型”の施策も視野に入れることで、持続可能な人材戦略を企業とともに構築しています。
離職を”防ぐ”のではなく、”選ばれ続ける組織”になるための仕掛けづくりを、いまこそ始めてみませんか?
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