はじめに
副業兼業の増加による正社員離れや、これから訪れる団塊世代の大量退職など、企業はかつてない「ナレッジ流出の危機」に直面しています。
一人が辞めるだけでも業務に穴があくのに、複数人の退職が重なるとその影響は想像以上です。
「もっと準備しておけばよかった」と後悔する前に、人事担当者ができる引き継ぎ対策を整理し、組織の知見を守る仕組みを構築しておきましょう。
本記事では、最新の雇用データを踏まえたリスクと、具体的に人事主導でできる施策をわかりやすく解説します。
退職増加の現状と社会動向
まずは現状を整理しましょう。
厚生労働省の雇用動向調査(例:2023年版)によると、転職者数はリーマンショック後の低迷期を超え、近年では年間350万人前後で推移しています。
さらに、今後数年で団塊世代(1947~49年生まれ)が75歳を迎えることから、役職定年や定年退職を迎える人が大量に発生することが予想されます。
総務省の統計では、2025年には約680万人の団塊世代が後期高齢者となり、医療・介護だけでなく、雇用構造にも大きな影響を及ぼすとされています。
加えて、若年層の離職率も高止まりしています。
20代の平均勤続年数は3年未満という企業も少なくなく、終身雇用が前提だった時代と比べると、従業員の入れ替わりは明らかに激しくなっています。

引き継ぎ不足がもたらす経営リスク
「人が辞めるのは仕方ない」で片づけてはいけません。
十分な引き継ぎがないまま退職・異動が繰り返されると、以下のような深刻なリスクが生じます。
- 業務停滞・属人化の固定化
退職者の知識やノウハウが属人的に残り、後任が「何をどう引き継ぐべきかわからない」という混乱が生じる。 - 顧客対応の品質低下・信頼損失
営業やサポートの引き継ぎが不十分だと、既存顧客のクレーム増加や解約リスクにつながる。 - 採用・育成コストの増大
人の出入りが激しい組織ほど、引き継ぎ不足が教育負担を膨らませ、採用費用やOJTの工数が積み重なっていく。
こうしたインパクトは、一見すると数人分の問題に見えますが、積もり積もると数百万~数千万単位の損失になることも珍しくありません。
このような背景から、経営戦略の一環として「引き継ぎを組織的に整える」ことが求められているのです。
人事が主導できる具体策
では、実際に人事部門として何ができるのでしょうか。以下のように、制度・運用・ITの3つの観点から整理してみます。
1. 離職前面談で「引き継ぎ計画チェックリスト」を確認
多くの企業では、退職届提出後に面談を行いますが、単なる意思確認にとどまっていませんか?
人事面談に「引き継ぎ計画の確認項目」を加えるだけでも、組織としての引き継ぎ管理レベルは大きく変わります。
例えば、
- 誰に何を引き継ぐのか(後任候補の確定)
- 業務の進捗状況・残タスクの洗い出し
- ナレッジ化すべき暗黙知のリストアップ
といった要素をチェックリスト化し、退職者と上司・人事の三者で共有する仕組みを制度化しましょう。
2. ナレッジを組織に残す仕掛けをつくる
「マニュアルにまとめておいて」と言っても、属人的な知識は文書化しきれないことが多いものです。
そこで、
- 退職者インタビューの録画
- ベテラン社員からのヒアリングセッション
- 社内勉強会でのナレッジ共有
など、口頭でしか伝わらないノウハウを動画や音声で残す取り組みが有効です。
これを人事が主導してアーカイブ化すれば、後任者が必要なタイミングで視聴できるので、OJT負担の軽減にもつながります。
3. 後継者育成プログラムと引き継ぎを連携
人事部門が後継者育成のフレームを持っている場合は、引き継ぎとOJTを一体で設計することがポイントです。
- 社内公募制度を活用し、後任を早期に確定する
- 引き継ぎを育成計画に組み込む
- 異動やジョブローテーションの際にナレッジの棚卸しを行う
こうした取り組みで、退職リスクを前提とした「穴をあけない人材配置」が可能になります。
ITを活用した引き継ぎ管理のアップデート
最近では、人事部門が全社の引き継ぎ状況を可視化・管理できるツールが注目されています。クラウドサービスを活用すれば、
- 部署ごとの退職予定者を把握
- 引き継ぎページ上で進捗を確認
- 未完了項目をアラート通知
といった仕組みを一元化できます。
従来の「各部署任せ」だった引き継ぎが、人事部門で俯瞰して進捗管理できることで、漏れのない組織運営が実現します。
まとめ|引き継ぎを経営テーマに
退職が多い時代だからこそ、引き継ぎは単なる個人タスクではなく、会社の持続的成長を支える重要テーマです。
人事担当者が「引き継ぎの仕組み化」に目を向けることで、
- 業務の属人化を防ぎ
- 人材育成を効率化し
- 顧客との信頼関係を維持する
ことが可能になります。
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